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底に金箔を沈めたような深い翠。誰よりも森に愛された彼の持つ瞳は夜の木々が奏でるどこまでも澄んだエメラルド。それは光の角度によって多彩な色を魅せる不思議な色合いをしている。その美しい硝子玉の持ち主は今瞼を閉じているので色合いを感じ取ることは出来ないが、かわりに太陽に愛されなかった国独特の白い肌と少しくすんだ金色の柔らかく子供のような髪を梳く。続けて緩やかな曲線の輪郭を撫でれば髪と同じ色をした睫毛がぴくりと揺れたが、起きたわけではないようだった。目の前で眠るこの存在は紆余曲折を経て最近恋人になった存在である。互いに忙しい身なのでこうやって一緒に過ごせることは少なく、そんな恋人と一緒のこの空間から出るのは酷く勿体無いが、彼が起きた時のために朝食を作らなくては。
ロンドンの空は重く、自分の国のものとは全く異なる存在感を放つ灰色である。上からの緩やかな、けれど確実にかかる圧力に少しだけ溜息。それと同時に止めていた手を動かして、再び料理に意識を戻す。自分流の朝食は俺がこの家に来ると作るものの一つであり、この家の主であるアーサーの数少ないお気に入りの一つでもある。郊外とはいえ朝独特の慌しさが町を支配する中、数歩遅れて見送るかのような気分で喧騒と共存するのは悪くない。
時間と手間を最小限にした朝食作りはもう終わりそうである。が、それを食べてくれるアーサーが起きてこなくては意味が無い。普段ならばそろそろ起きてくる頃だというのにその気配すら感じられない。古い掛け時計が示す時刻は11時。休日とはいえ流石に起きなくてはまずい時間だろう。気持ちよく寝ている所を起こすのは悪い気もするがここで起こさなければ怒られるのは自分である。それは勘弁願いたい。怒った姿もそれはそれで大変可愛いのだが機嫌を取るのが大変なのだ。
寝室のドアを開ければ、すぅすぅと安定した穏やかな呼吸音が聞こえてくる。なるべく気配を消して(これから起こすというのに矛盾した動きだが)近づいて、ひょこ、と覗き込めばアーサーは自分が部屋を出た時と殆ど変わらない体勢で眠り続けていた。安心しきった寝顔は彼の幼さを強調していて「熟睡してるねぇ」と思わず声が出た。そこでふと気付く。彼はこんなにも他人の気配に気付かない人間だっただろうか。俺の記憶しているこいつはとにかく人嫌いで、こちらから近づこうものなら猫の様に全身の毛を逆立てて警戒するような、そんな性格ではなかっただろうか。「あれ、俺ってもしかして結構信頼されてたり、する?」呟いた一言は予想以上に部屋に響いて、もぞりと布の塊が動いた。寝返りをうったことで髪が乱れ、露になった額に優しくキスを落とす。額から頬へ、頬から唇へ。「ん・・・」ゆっくりと開かれる瞳を見つめて微笑みを。寝起き特有の少し彩度の落ちた翠が自身を捕らえたのを確認し、「アーサー、起きて」と甘やかな声を注ぎ込む。
「フラン、シス・・・?」
「おはよう、お姫様」
今日もまた幸せな1日が始まる。
春コミのコピー本を加筆修正。最初は国だったけど、違和感が出てきたので学生っていうか一般人っぽいパラレルに変更。書いた時のテーマは甘く!だったと記憶してます・・・。
