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気分が悪い。今の自分の体調も状況もその一言に集約されているようなものだ。まぁ「悪い」などというそんな生易しいものでもないが。
左手を押さえ込む鎖は重く、動かすたびに嫌な音を響かせ闇を揺らす。壁に繋がっているそれは俺の自由を奪うがこんなものが無くても俺はもう自分の意思で体を動かすことはできないだろう。恐らくは地下牢であろうこの部屋は石畳なせいもあいまって冷え込みが酷い。手足の感覚は痺れを訴えるのみで、もはや体としての機能すら果たしていない。極寒の地での出血と痛みで意識は沈む直前で、時間感覚は失って久しく(今が西暦何年なのかすら分からない。分かるのは冷え込みからして今が秋から冬だということだけだ)最後の記憶は憔悴しきった弟の顔。あぁ、ルーイ。お前は元気だろうか。重くのしかかるこの絶望がお前には無いことを願っている。
「君って結構強情だよね」
「・・・」
「合理的な考え方があるってことも分かっててその態度なんだもん。少し感動するよ」
現れたのは冬の男。二重扉の入り口でいつものように微笑んでいるのだろう。軽やかとも取れる声と優しさを貼り付けた表情で、こいつは俺を見下している。目を開ける力も残ってはいないのであくまで想像だが。そう、確かに俺は分かってはいる。この男の求めているものは自らに対する畏怖と忠誠。例え見かけだけの物だとしても、それを此方の態度に表せばこの闇からは開放される。けれど俺は、その条件を飲むつもりは更々無い。俺が忠誠を誓うのは二人だけ。かつての偉大なる我が王、大王と呼ばれた男と我が最愛の弟、片割れであるルートヴィヒのみだ。それはかつても、そしてこれからも変わることは決してない。
「何か、用かよ」
「用というかいつも通りだよ。僕の下につくつもりは?」
「てめぇも、大概しつ、こいよな。Neinだっつてん、だろ!」
つぶされた喉で叫ぶ。何年も何十年も続けられた問い。答えも常に同じだ。
「だよね」
「・・・・・・・・・?」
「・・・」
「どう、した?早く、撃てよ」
普通なら続くだろう銃声が、無い。 当たり前のようになっていた足への痛みがいつになっても来なかった。痛覚はとっくに壊れたから痛みというよりかは生温い赤い液体が体から溢れ出るという感覚に近いものだが。それが無いなんて、一体どうしたというのだこの北の主は。ゆるゆると瞼を開ければ、暗闇の中ぼんやりと浮かび上がる輪郭は震えていた。それと同時に上から落ちてきた透明な雫。驚きで更に顔を上げて、赤みの強い紫色のその奥を見つめる。それはゆらゆらと寂しげに揺れていて、かつての弟の姿がそこに被った。
「ねぇ、ギルくん」
「・・・・・・?」
「ひとり、は寂しいね」
「・・・・・・」
「みんなね、出て行っちゃったんだ」
「イ、ヴァン・・・・・・?」
あぁ、最近やけに静かだったのはそのせいか。となると俺の中で何かが消えた感覚があるのも道理だな。終わりとは意外にあっけないものだとと、こうもあっさりしているのかと驚かざるを得ない。そうか、終わりか。ぽつりとつぶやいた一言がやけに重く響いた。
すっ、と回された腕のその温度は予想よりはるかに温かい。ごめんね、ごめんね。呪文のように耳元で続く呟きに、縋りついてくる様な両腕に。曖昧に浮き沈みする意識は、ただ温もりだけを理解して。よく分からないままに俺はその暖かさを甘受する。
そして、この温かい腕を振りほどく術など俺はもう知らない。
・友人への捧げ物を加筆修正。といっても大したことはしていない。ザ・ちゅうに。そんでもって実はまだ続いてる露普祭リメイク第4段!
