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寒い冬はとっくに始まりを告げている。外に出る気もしないので自宅リビングにて僕はただぼんやりと時間を見送った。つけっぱなしのTVは淡々と情報を流し続け、白銀の外は眩しい光を運び続ける。ソファの上で丸くなって過ごす時間は異様に長い上に、一人の部屋はストーブで暖めているはずなのに窓の向こうの白い世界とは同じくらい冷たく感じてしまってなんだか嫌だった。こうゆうとき誰か居てくれると心強いんだけどなぁ。
「よう」
開けていた扉、軽いノックで現れたのは噂をすれば何とやらでギルベルト君。部屋の中だというのに帽子とマフラーをつけたままこちらの様子を窺っている。酷いな、この部屋そこまで寒くないでしょう?視線に気付いたのか軽く肩を竦めた彼は帽子とマフラー、ついでにコートも脱いだ。当たり前のようにそれらをハンガーに掛けて、反対側のソファへと座る。心なしか顔色が悪い。
「やあ、久しぶり。元気?」
「おかげさまでな。微熱やらなにやらとは未だに仲良くさせてもらってるさ」
「ふふ、そっか。大丈夫?」
「・・・お前は人の心配してる場合じゃないだろうが」
「うん、そうだね・・・」
けほっごほっ、と沈黙を嫌うかのように咳がこぼれる。苦しいな。喉の痛みと相まって咳の破壊力は絶大だ。慢性的に体調が悪いのはいつものことだけれど弱っている所に風邪を引いてしまったらしく熱も高い上に嫌な寒気が止まらない。ずり落ちていた布団を引き上げてソファの上で寝返りをうつ。それでも寝心地の悪さは変わらない。ソファで寝てる僕が悪いんだけどね。彼の方を向けば、顔をしかめて困ったように溜息をつかれた。
「薬は飲んだのかよ」
「ううん。僕あれ嫌いなんだ」
「お前その歳で好き嫌いなんてするんじゃねぇよ。飯は?」
「食べてない」
「アホか」
アホだなんて酷いなぁ。だってしょうがないじゃない。体はだるくて起きれないし、食欲だってない。ここ二三日はスポーツ飲料だけで過ごしてきた。それで別に問題はなかったしね。自然と落ちてきた目蓋に逆らうことなく目を閉じる。あぁ、しんどい。もう一度寝てしまおうか。そんなことをぼんやりと考えていると枕元に気配。驚きで目を開けると、それと同時に額に冷たさ。
「うわ、マジで熱いな」
「・・・」
彼の手はとても冷たかった。あぁ、気持ち良い。ってあれ、ギルベルトくんてこんなに体温低かったっけ?僕の疑問は呆れて言葉もでないと言いたげなギルベルトくんから答えを得る。
「お前が熱いだけだろうが、ったく・・・」
またずり落ちかけていた布団を掛けなおされて、適当に放置していたペットボトルのゴミが回収される。ついでとばかりにクッションを枕代わりに置かれ、身に着けたままだったマフラーを外された。つけっぱなしだったテレビは消され、眩しかった外からの光はカーテンをかけることによって遮断される。
それだけでなんだか随分楽になった。
てきぱきと作業を続ける彼を目で追って、その姿を見つめる。一旦部屋を出て、戻ってきた彼は手に洗面器を持っていた。氷水の入った容器にはタオル。ぎっしりと絞られて額の上に乗せられれば、冷たさがじわじわと広がった。そんなことしなくても冷却シートならそこにあったのに。
「こうゆうのはこっちの方が効くんだよ」
「そうゆうものかな」
「そうゆうもんだ」
病人に対する博愛なのか、それともただの気まぐれなのかギルベルト君の表情はいつもよりずっと優しい。普段なら決して見せてくれないような穏やかな微笑み。あぁ、彼がいつでもこうして笑ってくれたらいいのにな。まぁ、僕のそばに居る限りそんなことありえないんだろうけど。
「ほれ、寝てろ。後でなんか食うもの持ってきてやるよ」
その穏やかな視線と声色を母のような、と言ったら彼は怒るだろうか。実際のところ僕たちに母親なんてものは存在しないからあくまでも推測範囲を出ることはないのだけれど。母親のような無条件の優しさに少し似ている気がした。
…たとえその紅の瞳が自分を見ていないとしても。
・とりあえず過去作品その2。ストック切れた。
殺伐としたものを書こうとしたのになぜかほのぼのに。あれー。
ギルはイヴァン様にちっさいころのルートを重ねてる。
タイトルは石川智晶さんの「Squll」より。個人的露様ソング。
