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あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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「あー、大丈夫か?」仕事から帰ってくるとソファの上で動く気配のない同居人。「…、あまり大丈夫ではないな」真っ青な顔をした東海道が呟く。ただでさえ痩身で肌の色も白いのだから、いっそ病的だ。死にそうと言い換えても良い。この男、自分で言うには純血の吸血鬼らしく、別に大して血を飲まなくても構わないのだという。しかも血の味が大嫌いで飲みたくないと言うのだから、そりゃあ飲む量なんて少ない。が、残念なことに全く飲まないと死んでしまうわけだ。しかも混血の吸血鬼と違って必要なのは人間の血。そして東海道が1番嫌うのも人間の血だ。大変な悪循環。たいていの吸血鬼というのは餌用の人間を飼っていて、洗脳して自分に害がないようにしてから側において置く(と言うことを貧血で思考力の落ちた東海道から聞き出した。こいつは自分のことを話したがらない)らしい。で、そんな吸血鬼と人間の俺なんだけど、俺が洗脳されてるかといえばそうではない。そりゃ人間の血が嫌いな奴なんだから洗脳なんてされるわけもない。じゃあ、なんで一緒にいるのかっていうと、まぁ、拾ったんだ、俺がこいつを。東海道には兄がいて(弟もいるらしいが)、そいつとは致命的に仲が悪い。喧嘩なんて日常茶飯事で、まぁその喧嘩の理由は大体が価値観の違い。んで、耐え切れ無くなった東海道が家っていうか吸血鬼の世界を飛び出した(と言うことを貧血で以下略)。まぁ、もう死ぬ気だったんだろうなぁ、というのが拾った時の印象。深夜の公園で倒れてるのを放っておけなくてそのまま家に連れ帰った。目が覚めて、吸血鬼だから此処には居ない方が良いっていうのを無理矢理引き止めた。このまま別れたら完全に自殺されると思ったし。そうゆうのは目覚めが悪いからなんて言って。たかが食い物のことで自殺なんか考えるなよ、というツッコミは既にいれてあって、それに対する返答は、じゃあお前は犬の血を飲んでまで生きたいと思うのか、というものだった。うん、確かに生理的に無理だ、それは。ペットとして可愛いってのもあるけど、なんか人として無理な気がする。でも、だからって死ぬことはないだろ?そんなわけで奇妙な同居生活は続いている。俺は普通に仕事して(会社員ね、サラリーマンなのよ俺)、東海道は調子さえ良ければ日雇いのバイトをやって、稼いだ金はそのまま俺に回ってくる。別に食費がかかっている訳でもないのでいらないって言ってるんだけど、人間は金はあっても困らないだろう?といって聞かない。妙な所で人間事情に詳しいから不思議だ。見た目は普通の人間と変わらないけど、血無しで一ヶ月は持たない。それが過ごしているうちに分かったことだ。だから俺は東海道の飲み物とか食べ物の中に数滴だけど俺の血を混ぜて食わせてる。結構な量を入れちゃうと気づくんだよ、こいつ。まぁ、無いよりはマシだよなっていう量だけど。そういえば前回の食事からそろそろ一ヶ月だ。もう限界だろう。「東海道ー、ほら飲めって」痕の残った左手を差し出す。が、そんな素直に飲む訳がなく、首を振るばかり。自殺は諦めたらしく前よりは大分素直に飲むようになったものの、やはり嫌いなものは嫌いらしい。「ほら、な?飲めって」「…」あー、もうしゃぁねえなぁ。つかすげーよ、東海道の理性。飢餓状態だせ?目の前に食べ物出されて堪えられるのが信じられない。という訳で最終手段、カッター。ぱきんと新しい刃を出して、手首にさっくりと傷をつける。「ほら」血特有の臭いが広がって、ようやく東海道もその気になってくれたらしい。ぱくりと傷口を口に含んでこくんと飲み込んだ。血を飲まれてる間は痛みも違和感もなくて、終わった後傷つけた手首には痕も残っていない。吸血鬼の能力なのだそうだ。映画などでは吸血鬼に血を吸われると快感を感じる設定が多いから、そうゆう能力は持ってないの?と聞いた所、持ってはいるが、別段使う必要はないだろう?とのこと。うん、確かに必要ない。だって俺は充分にそれを得てしまっている。表向きは自殺なんかされたら目覚めが悪いからなんて言っているが、本当は違う。あの日、東海道を拾った夜。あいつは覚えてないみたいだけど、俺は血を吸われている。多分本能だったんだろう。部屋に連れて帰ってベッドに寝かせて、顔を覗きこんだら、うっすらと目を開けたから、気がついたんだと思った。大丈夫かよ?と伸ばした手は思い切り捕まれて、かぷりと噛み付かれていた。飢餓状態だった割に飲んだ量は少なくて(思い返した時にそこまで嫌いなのかよと思ったものだ)身体に違和感はなかった。こくんと東海道の喉が動くまで、俺は驚きで身動きも悲鳴をあげることも出来なかった。ただそれ以上に東海道自身に起きた変化に俺は目を奪われていた。蒼白だった顔は肌色を、パサついていた髪は柔らかな猫っ毛を、冷たかった身体は体温をそれぞれ急激に取り戻した。衝撃だった。そして、それ以上に快感だった。死から生を取り戻した高揚感と誰も手にしたことのない宝物を手に入れたかのような満足感。麻薬のような中毒性を持った快感に一瞬で支配されてしまった。「ん」空腹が満たされたのか、ゆっくりと瞼が開かれる。虚ろだった黒耀石の瞳は光を取り戻してその中に自分が写る。よし、大丈夫そうだ。「うがいしてくる」起き上がった東海道の第一声。いつものことだ。またしばらくは平気だな。ちょっと寂しいなんて思っている自分をごまかすために心の中で呟く。奇妙な同居人に依存しかけてる自分に気づいていないふりをして、俺は着たままだったスーツを着替えることにした。

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