あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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早朝というには薄暗い朝五時。ようやく家に帰ってこれた。夜勤のあと手術が立て続けに入って結局二日以上病院で過ごすことになった。仮眠室もあるが眠れた直後に呼び出されていれば休めるわけもない。睡眠時間が足りない中、車で帰るのは怖かったのでタクシーを呼んで帰ることにしたのは正解だったと思う。「…ただいま」「おかえりー」ドアを開けると山陽からの返事。「うぉ、大丈夫かよ?」頷くことで問いに答える。予定していた手術が一つ。そこに緊急で来た患者の手術を出来るのが自分しかいなくて更に一つ増えて、最後にERからヘルプを頼まれた。それが大仕事だった。流石に疲れた。「疲れてんなぁ。寝る前に風呂入ってこいよ。ほら荷物持つから」こうゆう時同居人がいるというのは大変助かることで、まして気が利く人間なら尚更。荷物を預けてふらふらと浴室に向かうと既に着替えが用意してあった。流石だ。きっと風呂から出れば軽い食事が用意してあるのだろう。循環器外科の自分と内科の山陽でなんとか夜勤が被らないようにしているからこそ出来ることだ。ちゃぷんと浴槽に浸かるとようやく身体から力が抜ける。あぁ、疲れた。常に命と向かい合うことは覚悟していても大変なことにかわりはない。掬いあげた水の様に指の間をすり抜ける命がある。昨日の夕方にERにヘルプに行った時、そこは戦場だった。近くで交通事故があり、玉突きになって怪我人が発生。バスだったものだから人数も多く、他の病院にも手伝いを頼み、院内でも手の空いている医師が多数ヘルプに回った。麻酔科の山形や小児外科の北陸と上越もヘルプとして参加していて、皆慌ただしく動き回った。一段落したのがその日の深夜、つい三時間程前のことだ。風呂から出て疲れ切った体を引きずって行けば、やはりテーブルの上には軽い食事。残念なことに食欲は無い。睡眠欲の方が勝っている。「東海道ー、眠いのはわかるけどこれ食ってから寝ろって」山陽はテーブルから手招きをする。「ほとんど飲まず食わずだったんだろ?」どうやら事情は分かっているらしい。秋田辺りが言伝たのだろうか。「…そうだな」何も食べないというのも体に良くないので、席に着くことにする。スープに口をつけると胃に優しい味がした。「旨い」素直に感想を述べると俺が食べたことに安心したのか山陽が微笑んだ。「俺は今日午後からだから昼も作っておくよ。そのかわり夜ご飯よろしく」「了解した」夜ご飯といっても恐らくは十一時を過ぎるだろう。一度寝て、昼ご飯を食べて買い物に出ればなんとかなる。これ以上働かない頭で考えても仕方ない。よろよろと寝室まで歩く。「おやすみ」「おー、おやすみ」ベッドに倒れ込むと一瞬で意識がブラックアウトした。
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