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あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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「おじゃまします」三つ上の兄が住んでいるのは大学近くのマンションだ。高校時代からの友人の山陽さんとルームシェア。学校の終わった夕方、予備校も今日は休みで、だからこそこの日を選んだ。今日俺が兄さんを訪ねたのには理由があって、それはちょっと複雑なのだ。「よく来たな。迷わなかったか?」通されたのはリビング。コーヒーで良い?と台所で山陽さんの声。はい大丈夫です。「久しぶり、だな」「うん」こうやってちゃんと話すのは本当に久しぶりな気がする。兄さんが家を飛び出してからは全然会う機会も無いし、実家に顔なんて出してくれないから。「はい、どうぞ」「あ、いただきます」運ばれて来たのはコーヒーとお菓子。コーヒー皿にはミルクと角砂糖が二つ。よく俺なんかの好みまで覚えていられるものだ。一緒にコーヒーを飲んだことなんて数回しかないのに。「で、今日はどうしたんだ?急に来たいなんて珍しいな」おそらく兄仕様になっているだろうコーヒーを飲みながら兄が聞いてくる。今日の本題は凄い個人的なことなんだけど、どうしても直接伝えたくて。「兄さん、俺ね、」「?」「薬剤師になろうと思うんだ」空気が止まった。山陽さんは食べようとしたお菓子が今にも手から落ちそうだし、兄さんに至ってはコーヒーカップを落としそうだ。やっぱりそうゆう反応だよね。俺がもし二人なら同じ反応をするだろうし。「それは、お前自身の決断、なんだな?」落としそうなコーヒーカップを皿に戻しながら兄さんが問う。「うん、俺が将来について真剣に考えた結果だよ」「そうか。なら、良いんだ」滅多に見せない優しい表情だ。やっぱり兄さんは俺のことをよく分かってる。ありがとう。「親には言ったのか?」「言ったよ。猛反対されたけど」「だろうな」「だから、俺も大学入ったら家を出ようと思って」「…そうか。それしか無いだろうな」「うん」お金出してもらえるかわからないけど、特待生はとるつもりだから。「もう志望校は決まってるのか?」「一応」「そうか。何か困ったことがあったら言ってくれ。力になる」「うん、ありがとう兄さん」「自分で決めたんだ、きちんと貫け」「うん」「頑張れよ」うん、俺頑張るよ、兄さん。あなたみたいには上手くいかないかもだけど、頑張る。「あ、そうだ。晩御飯食べていかね?」あ、えっと。折角の提案なんですけど「すいません、俺このあと約束が…」「そうなのか?」「うん、ごめんなさい」「じゃあしゃーないな」また今度遊びに来いよ、にっこりと笑った山陽さんと、待ってるぞと穏やかな顔してる兄さん。この人達の様になれたら、と心から思う。人の心の弱さを知っていて、それでも強くあろうとするこの人達のように。大変だろうが、頑張れ。くしゃりと撫でられて酷く安心する。ありがとう、兄さん、山陽さん。

・まだ続くよ。

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