あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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兄さんの達のマンションを出て隣の喫茶店に入る。待たせていた人物は一番奥の席で優雅に紅茶を飲んでいた。「お待たせ」「あぁ、お疲れ。お兄さん何だって?」「ちゃんと分かってくれたよ」「そう、良かったね」うん。ホント良かった。兄さんにまで反対されたらどうしようかと思った。近くにいた店員さんに京浜東北と同じものをお願いしつつ座る。「何はともあれ、これで頑張れるじゃないか」「そうだね」頑張れるよ。俺の家は若干複雑で、俺は三人兄弟の末っ子。すぐ上の兄である今日会った兄さんと父親とは血が繋がっている。が、母親と一番上の兄、九州さんとは全く血の繋がりが無い。俺達の本当の母さんが若くして病に倒れて亡くなり、その後再婚した人とその連れ子ってわけなんだけど、ちょっと色々問題が。父さんも医者なんだけど、母さんが亡くなったら人が変わったように仕事人間になっちゃって、家族なんか二の次。新しい母親も医者なんだけど、この人は俺達の母親も医者で相当優秀な人だったから嫉妬しまくりで。俺達を見ては、特に母親似の兄さんを見ては母さんをけなしたりヒステリックに叫んだり。父さんも父さんで仕事ばっかりで何も言わないし。まぁ、多分父さんも母さんに嫉妬してたのかな、とは思う。それくらい母さんの名前は有名で医療界に知れ渡ってたし、その死が与えた影響は大きかった。心臓外科の東海道道子。それだけで一目置かれた母と違い、父親と今の母親は至って普通の医者だから。もちろん優秀な人達だけど。つまるとこうちの家族は医者一家。両親は今言った通り、九州さん(これは母親の旧姓らしい)は脳外科。だから俺は医者、というか医療系の職業が死ぬほど嫌いだった。そう、だった。でも今は。自分なりに将来のことを考えた今、候補に挙がったのはやっぱりというか、医療系だった。でもやっぱり医者になる気にはなれなくて。色々調べた結果が、薬剤師。けど、医者であることが誇りで医者一家を強調したい両親は猛反対。あの人達、兄さんが医者になるって言ったら妨害ばっかりしたのに。そんな訳で大喧嘩中な俺。心配かけたくなくて兄さんには言わなかったけど。でも。兄さんだけは俺の味方でいてくれる、そんな期待をして会いに行ったのは正しい判断だった。あれだけ医療系を嫌っていた俺が進む道を薬剤師にしたのを無条件で肯定してくれた兄さんはやっぱり俺の兄で、いつだって俺を守ってくれた人だった。あと。「ありがと、京浜東北」「別にお礼を言われるほどのことじゃないよ、僕はただ会いに行ってみれば、って言っただけさ」「うん、でも俺だけだったら会いに行こうとは思わなかったから」忙しい兄さんの邪魔はしたくなかったし、何より山陽さんと暮らし始めてようやく落ち着けたのに、俺のせいでまた実家のことを思い出させることはしたくなかった。そんな時、京浜東北が試しに会いに行ってみれば?と言ってくれて、背中を押してくれたのだ。「紅茶、冷めるよ?」「あ、うん」運ばれてきていた紅茶に手をつけるのを忘れていた。本来俺はコーヒー派なんだけど、京浜東北がかなりの紅茶好きなので最近飲むようになってきた。そんな京浜東北が文句を言わずに飲んでるって事はそれなりに美味しいってことなんだろう。口に含むとアールグレイの香りが広がって確かに美味しい。そういえば、と連想するのは先程飲んだコーヒーの味。砂糖とミルクこそ俺の好みになってたけど、あの味は兄さんの好きな味だ。基本食べ物に関心の無い兄さんが自分で買ったとは思えない。山陽さんって意外に尽くす人だよなぁ、なんて思う。「何、どうかしたの?」「ううん、何でもない」ちょっとにやけてたみたいで京浜東北が怪訝な顔をする。だから、何でもないってば。ただ、兄さんには幸せになってほしい、って思った。ただそれだけだよ。
・おしまい。紅茶は中の人繋がりです。
・おしまい。紅茶は中の人繋がりです。
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