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あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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「銀座ー?」ふらふらと城内を歩き回る。代々受け継いできたというこの城は中世の雰囲気を色濃く残していて、無駄に広い。皆がいたころでさえ広かったこの家は二人で住むには広すぎて困る位だけど、銀座が大層ここを気に入っているから俺も好き。けど、やっぱり問題はあって、いくら耳を澄ませても匂いを追おうとしても銀座は器用だからあっさりと行方をくらましてしまう。吸血鬼って凄いよなぁ、と言うと、それはあの人だからだよ、と言ったのは同じ吸血鬼の有楽町だ。年の功ってやつ?と言えば、それ本人に言うなよ大変なことになるぞ、だそうだ。実際問題銀座は若造狼男の俺の何倍、何十倍も年上らしい。疑問形なのは銀座が正確な歳を覚えてないから。もっとも俺も自分の歳なんか覚えてなんかないけど。「ぎんざー、どこー?」探しはじめてかれこれ一時間。いつもはこれ位平気なのに何故か疲れてきた。ここまでお気に入りの場所を当たってきたけど、全てハズレ。最後に残ったのは最上階の部屋。ここは窓が大きくて一番空を感じられる。扉の前に立てばギィと勝手に開いていった。居た居た。「やっと見つけたー」「いらっしゃい半蔵門」緩くウェーブのかかった橙の髪。黒のスーツにマントに手袋。あれ、珍しい、正装だ。「なに、なんかあるの??」「特に何も無いよ。ただ、」「ただ?」「今日は新月だからね」「あ、そうだっけ?」通りで疲れるわけだ。新月の日、俺達狼男が普通の人間になる。そしてそれと同時にこの日は吸血鬼は最も力が強くなる日。窓の向こう、いつもなら浮かんでいるはずの月は無く、真っ黒な闇。「おいで?」吸血鬼の目にはその目を見た相手に言うことを聞かせられる力がある。そんなことをしなくても俺は逆らったりしないのに、何故か銀座は血を吸うときいつもその力を使う。あっという間に体の支配権を奪われて一歩一歩近づいていく。すっ、と手を取られ、窓の前に置かれたソファに座らされた。目の前に広がるのは暗闇と硝子に映った俺達だけ。銀座は俺を座らせるといつも後ろに行ってしまう。だから直接は見れないけど、硝子に映っている手袋を外す姿はいつ見ても様になっていて格好良い。「ごめんね、ちょっと加減出来ないかも」ささくれ立った掌が首を撫でる。首や頂にかけての弱い部分に触れられて、ぞくりとする。「良い?」耳に触れるか触れないかという微妙な距離で注ぎ込まれる声。普段からいい声なのにこの時とばかりに低くて甘い声なんだからずるい。しかも支配権を奪われてるから返事なんて出来ないし。「っ、ぁ…」違和感があるのは歯が皮膚を突き破る一瞬だけ。後は快感だけが全身を暴れていく。ごくごくと喉の鳴る音がやけにはっきりと聞こえて、本当に加減されていないのが分かる。あまりの気持ち良さに意識が流されそうなのを何とか耐えるけど、それよりも貧血で倒れそうな勢いだ。でも、ここで意識を失ったら勿体ない。血を飲み終わった一瞬、こちらを覗きこむその表情がいつもの人形みたいな銀座とは別人みたいに優しくなるから。「半蔵門、大丈夫?」「…だい、じょーぶ」ほら、やっぱり。普段は絶対に見せない穏やかな顔してる。「ぎ…んざ…」支配から解放されたとはいえ、呼んだ名前はまだ快感が残っているのがよく分かる甘さ。こんな声俺じゃない。「ぎん、ざ、…だい、んっ」大好きだよ、と続けようと思った言葉はあっさりと口づけに飲み込まれた。体に力も入らないけど、なんとか手が届いた銀座の服の裾を掴む。目の前に髪の色と同じ色の瞳。力なんて使わなくてもこの目に囚われたら逃げられない。「好きだよ」酸欠でぼんやりしてる中囁かれる言葉。うん、俺も大好き。ぎゅう、と抱き着くと安心したように笑うから、俺も嬉しくなる。そうして再び落とされた口づけに俺は身をまかせた。

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