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あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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「なんで、おまえは、そうなんだよっ!」目の前でにこやかに微笑むのは羊の皮を被った狼、否、狼男。「なんで、と言われましても。それは先輩が一番わかってるんしゃないですか?」にこにこと一見人畜無害そうな笑顔だが、分かる人間からしたら(いや俺は人間じゃないけど)ただの胡散臭い悪巧みの顔でしか無い。話すと長くなるから色々省略するが、俺は所謂吸血鬼というやつで、俺の目の前にいるこいつはさっき言ったように所謂狼男である。こいつが小さい時に拾ったのが俺で、それ以来なんだかんだと世話を焼いてきた。今やすっかり成長して身長も俺と並んで、変身も上手く出来る様になって俺としては嬉しい限りなわけだけれど、ちょっとした問題が発生した。成長したら出て行くと思っていた(狼男というのは本来独立心が強い)副都心が全く出ていく気配が無いのである。今まで幾度となく出て行くように諭したのだが上手い具合にかわされて来た。が、いつまでも俺の側に居させる訳にはいかない。そんなわけで、きちんと話し合おうとこうやってお互いに向かい合っていた訳である。けれど、副都心の考えは変わらず、出て行きたくないと言う。いい加減自立しろと言っても、先輩の側にいるだけで、食料の確保だってちゃんと出来てるし生活も出来てますから、自立は出来てるつもりですよ、と言う。そして最後にはこう言うのだ。「俺は貴方が好きですから、貴方の側を離れたくありません」と。俺が言いたいのはそうじゃなくて、そうゆうことじゃなくて。分かれよ、副都心。「じゃあ何で先輩は俺を無理矢理追い出さないんですか?」「…」追い出すのが手間だから?だったら貴方が俺から離れれば良い。簡単な話です。貴方は吸血鬼で空を飛べる。空中を移動出来る貴方に対して俺はそれを追う手段を持っていない。そうでしょう?副都心は朗々と語る。反論は、出来ない。出来る訳がない。「いい加減認めてください。俺のこと好きですよね?」「…っ!」あぁ、その通りだ。俺はお前の事が好きだよ、本当に、心の底から。だけど、いや、だからこそ。だからこそ!「あぁ、やっぱり速いですね、流石先輩」背後にまわって腕を抑え、伸ばした爪を首に突き付ける。副都心には見えなかったはずだ。速さはこちらの方が圧倒的。「これが最終通告だ、ここから出て行け」低い声を出して、脅す。これで諦めてくれ。じゃないと俺は、俺はっ。やばい、涙が出そうだ。お願いだから、ここで諦めてくれ。俺から離れて行ってくれ。「先輩、忘れてませんか?」この緊迫した状況に似合わない穏やかな声と嫌な笑み。しまった、と思った時にはすでに遅く、背後の壁に両手を頭上で押さえ付けられていた。「貴方は俺よりずっと速いけれど、力は俺の方が上なんですよ」形勢逆転ですね、先輩。耳元で囁かれる声は直接脳に響く。暴れようにも片手押さえられた両手はぴくりとも動かない。腕どころか体さえ、金縛りにあったかのように動かない。「全部俺のせいにしてくれていいですよ」それは甘い毒だ。拒絶しなくてはいけないのに、止めろと声をあげることさえ出来ない。「ね、先輩?」色素の薄い茶色の瞳に俺の色を抜いた金髪と同じ色をした目だけが映る。俺は、昔から自分が怖かった。俺は純血種だからほんの少しで
いいものの、それでも生きていく為には誰かの、何かの血が必要で。そのためには相手を傷つける必要がある。もしも、もしも。俺に血を分けてくれる存在が現れたとして、俺は、これから生きていく中で幾度となくそいつを傷つけるだろう。愛しているなら尚更。好意を抱いた相手の血は吸血鬼にとって最高の味らしいから。幾度となく傷つけて、もし相手に嫌われてしまったら。嫌われて、相手が離れて行ってしまったら。無限に広がる負の思考回路。「先輩、怯えないでください。俺は絶対貴方から離れませんから」ねぇ、先輩。柔らかな声と同時に額に優しい口づけ。あぁ、その仕種は俺がうなされたお前を落ち着かせるためによくやったものだったはず。ふわりと全身の緊張が解けてゆく。両手は解放されて俺は壁を背にしゃがみこんだ。あの小さかった幼子はいつの間にかこんなに大きくなっていた。「何度でも言います。俺は絶対に貴方から離れない」知ってますか?狼男は独立心の強い種族であると同時に忠誠心も強い種族なんですよ。だから先輩、俺は。あぁ、分かってる。お前の気持ちは痛いほど分かってるよ。「俺も、俺もお前を好きだよ、副都心」お前はとっくに覚悟を決めてた。臆病な俺をずっと待っててくれたんだな。「…やっと答えてくれましたね」「遅くなって悪い」そして、待っててくれてありがとう。抱き寄せられた温もりをもう手放すことは出来そうになかった。

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