あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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初めて触れたその手は酷く温かかった。あぁ、人の手とはこうも温かいものだっただろうかと久しく誰にも触れていなかったことを思い出した。長らく一人だったせいだろうか、他人に対する接し方なんてとうに忘れていて、自分が酷く扱いにくい部類の人間だと知っているが故の不安、相手と上手くやって行けるかという恐怖。まぜこぜになって出た一言は酷く震えていた、たった「さ、ん、よ、う」の四文字だったにも関わらず、だ。ただ、そう告げた瞬間はっとしたように顔を上げたあいつの黒髪には不釣り合いなほど明るい茶色の瞳に自分が映ったその時にあぁようやく自分は独りではないのだと、そう思った。それだけで私はどれだけ救われただろうか。今も昔も振り返ればいつだってそこに居て、私は決して独りじゃないんだと教えてくれる。始まりのこの日をその温もりを私は、忘れない。
「生まれて来てくれてありがとう、山陽」
-東海道(と山陽)
互いが唯一無二になった日。
「生まれて来てくれてありがとう、山陽」
-東海道(と山陽)
互いが唯一無二になった日。
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痛いのも苦しいのも辛いのも。何もかもを背負うその背中。切り捨てることに容赦無い癖に感情だけはコントロール出来ないから悲惨過ぎる。あいつは同情も労りもしないけれど、過度の期待を寄せることもしない。それは他の誰に対してもそうのだけど、それのどれほど有り難いことか。自身に課されたからこそ、そして自分がそれに応え続けているからこそその大変さを、それが他の者にとって厳しいことを知っている。全てを捨てる強さでひたすら前へ進むのだ。けれど、基本的に捨てるばかりな癖に俺が駄目だと拾ってくれるだから有り難い。そしてその手が差し延べられるのが自分だけだと知った時の喜びをどう表したら良いのだろうか。
「大丈夫か、山陽」
覗き込む黒い双眸。純粋なその色は決して他の色に染まらず、ただ凪いだ湖の様な深い色を帯びる。優しい色、だ。ぬるま湯に溺れるかのような穏やかな終末さえ連想してかぶりを振った。ほら、と差し出された手を握って立ち上がる。自分より一回り小さい手、体。これのどこにあの過密スケジュールをこなす力があるのか。長年の疑問は未だ解答を得ない。得られることもないだろう。
「行くぞ」
向けられた背は力強く、踏みだす一歩は高らかな音を立てる。けれど手のぬくもりはそのままに。白い手袋越しではない温かい生きている証。
こうゆう時俺は幸せで決してお前に敵わないんだって思うよ、東海道。
―山陽東海道
無条件 幸福/降伏。
「大丈夫か、山陽」
覗き込む黒い双眸。純粋なその色は決して他の色に染まらず、ただ凪いだ湖の様な深い色を帯びる。優しい色、だ。ぬるま湯に溺れるかのような穏やかな終末さえ連想してかぶりを振った。ほら、と差し出された手を握って立ち上がる。自分より一回り小さい手、体。これのどこにあの過密スケジュールをこなす力があるのか。長年の疑問は未だ解答を得ない。得られることもないだろう。
「行くぞ」
向けられた背は力強く、踏みだす一歩は高らかな音を立てる。けれど手のぬくもりはそのままに。白い手袋越しではない温かい生きている証。
こうゆう時俺は幸せで決してお前に敵わないんだって思うよ、東海道。
―山陽東海道
無条件 幸福/降伏。
出会った時のあの言葉を今でもはっきりと覚えている。その口調や眼差しすら鮮明に。懐かしき記憶、それは時に若干の痛みを伴って山陽の胸に感傷を与え続け、よもや幾年月が経ったのか分からない。ただ、あの時戸惑いながらも差し出した手を握り返してくれたことで、今の自分はここに居る。優しさに満ちているわけでもなければ、永遠が約束されているわけでもないこの世界。幾度と無く諦めてその度に導いてくれたのはいつだって変わらない相棒で。その硝子細工のような繊細な強さは壊れかけの自分よりよっぽど儚いというのに決して崩れることは無く前へ前へと進んでいく。「さ、ん、よ、う」とただ呼ばれるだけでどれ程の強さを貰えただろうか、どれ程自分が救われただろうか。お前は知らないだろうけれど、俺は知っている。お前が居なければ俺は今こうして笑っていられないことを。だから、
「おめでとう、東海道」
―山陽(と東海道)
どうかその声で俺の名を呼び続けて。
「おめでとう、東海道」
―山陽(と東海道)
どうかその声で俺の名を呼び続けて。
ふとした瞬間に違いを感じる事がある。例えば彼が双子路線と言われている同僚といる時。例えば彼らが会議で真剣に話している時。置いて行かれる様な瞬間が、確かにあるのだ。結局の所僕は彼からしてみれば共に走る仲間と言うよりむしろ在来との関係に近いのかもしれない。訂正、在来以上同僚以下、多分。その差は決して埋める事の出来ないもの(だって僕等は無力だから)。多分、彼は無意識に僕を、僕らを隔てている。最速を目の前にしても彼はいつも通りでそれが酷く僕の心を脅かす(今度こそ本当に置いて行かれてしまうのではないかと)。彼は無口で何も言わないから僕は推測と検証から彼の心を推し量るしかなくて。だから全然分からない。確信を持てない。だから僕の出した結論は、たった一つ。曖昧で不透明な僕等の関係を考えない(今のこの状況が落ち着くことも事実だから)。不安も絶望も何もかも全て隠し通す。ただ、それだけ。
-(東北と)秋田
巡り巡って誰も報われない東日本その2。
-(東北と)秋田
巡り巡って誰も報われない東日本その2。
同じ顔をした同じ人間なんて存在するわけないけれど、自分達は限りなくそれに近いらしい。それは最近自覚したことの様で昔からそうだったような気もして、結局分からなくなって考えることを放棄した。ならば向こうはどうなんだろうかと考える。それすら以心伝心だったようで驚きを不機嫌で取り繕った目と視線が合った。そんな僕等は並ぶと鏡合わせのようになる。間違われるのには慣れてるし、仕方がないと思う。だって違いなんて無いのだから。ただ、分かった振りをされるのは酷く腹が立つ。かといって俺達の事をよく知らない人達に一瞬で見分けられるのにも悔しい気がして。そこがこの相方に見出だせた唯一の違い。日く、安心できるから。少しだけ同意。同僚達は僕達を全く違うと言うけれど、僕達すら分からないというのに一体何が分かるというのだろう。髪型、言動、仕種。意図的に変え続けた僕らは何が本当かを見失ってしまった。相対性でなんとか保たれた一線。互いに握る手のその温度差だけがただ僕等の存在を認識させる。僕達は違う存在なのだと。
-宇都宮高崎
似ているようで似ていないようで同じ存在な二人。
-宇都宮高崎
似ているようで似ていないようで同じ存在な二人。
俺がこの世界に存在する前からあの人は他人に優しい振りをして何人の人をを騙してきたのだろう。和気藹々の様に見えて、山のように積み重ねてある暗黙の了解に縛られて上辺の笑顔とごまかしで造られた贋物の家族。優しくするのはその方が楽だから、そう言って笑ったあの顔が瞼に焼き付いて離れない。俺が慕う唯一存在。神様とまではいかないけれど、それに等しいもの。優しさという仮面を被って笑うあの人は嫌いだけれど、その偽りを脱ぎ捨てる瞬間の清々したという顔はとても。結局あの人達は面倒なもの全てから逃げただけで、そして嘘の塗り重ねで出来た呪縛に囚われている。お前は囚われるなよ、と誰にも見せない(それは酷く綺麗で俺が好きな)素の顔で言ったあの人はやっぱり俺より長い歴史をもつ人だった。けど俺はそこに憧れを見出だすことは出来なくて。だから俺もまた自由なんていう大層な仮面を身に纏って今日も嘲笑う。
-副都心(と有楽町)
メトロの仮面舞踏会。
-副都心(と有楽町)
メトロの仮面舞踏会。
一番高い瓦礫の上であの人はいつも泣いていた。鉛色の空の下、白銀世界でいつだって誇らしく走っていたあの人は確かに僕の憧れで、けれどどこかで追い抜くことを確定付けられていたことには幼い名で呼ばれていた時から気付いてはいたのだ。段々と大きくなるその声を無視しつづけた結果が今だというならどうして不平を叫ぶことができようか。僕にあの人が眩しかったようにあの人にも眩しい人がいて、でもその人は結局振り返ることはしなかった(だってそれはあの人への裏切りだということを知っていたから。そこにどれだけの葛藤があったのかは分からない。知るには僕は幼すぎた)あぁ、どうしてこうも僕たちは報われないんだろう。けれど、あの人を想ったことも、この形で生を受けたことにも後悔は無くて。ただ危ういバランスの上にいるあの人に手を差し延べる事だけは出来ない、許されない。ただそれだけが。だから僕は何千何万と呟いた言葉を繰り返す。早く大人になりたかった、と。
-北陸(と上越)
巡り巡って誰も報われない東日本。
-北陸(と上越)
巡り巡って誰も報われない東日本。
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