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あの頃のままに優しさだけを乗せて紡がれる名前。ねぇ、俺はどんな風に貴方の名前を呼んでたっけ? ―只今休止中
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 最近の煽りを受けて貧血を起こしてまともに意識すら保てていない、そんな自分の奥底でどくりと明確な何かが存在を訴えた。どくりどくりと鼓動を打つそれに合わせて目を開ければ、飛び込んできたのは当たり前だけれど自室の薄暗い天井で、けれどそこに一切の歪みが無いことに違和感を覚えた。
 

(…なんだ?)
 

 むくりと起き上れば体も軽い。驚きに拍車をかけるようのその異常性に気がついた。外が、かなり騒がしい。その騒がしさに気がつけば奥底で暴れる何かを唐突に理解した。それは歓喜、だった。喜びという感情の爆発。それは国として久方ぶりに感じる明確な国民の意志でもあって、壊れかけたこちら側でまだこれほどのエネルギーを持っていたとは思いもしなかった。
 締め切っていた遮光カーテンをあけて窓を開く。おんぼろアパートの2階からは大通りを覗き込めて、それが理由で此処に住んだ。毎朝毎晩見てきたこの路はいつだって灰色に淀んだ空気が流れ込んで生と死の間を右往左往しつつどちらかと言えば死に傾きがちであった。それはある意味自分と常に同調していたわけだが、今夜は違う。人々が各々何かしらを手に持って我先へと駆けていた。その顔は生気に満ちていて、それはどこか帝国成立を祝ったあの頃を彷彿とさせる。
 意外なほど迷うことなく濃紺の軍服を手にとって着替える。今まで着せられていた北国の軍服は適当に放り投げた。しまっていたブーツに履き替えて、走り出す。体は予想以上に軽く、今まで鉛のようだったのが嘘のよう。階段を飛び降りて、走っていく人の流れに身を任せる。心の奥底で暴れていた爆発が全身を支配して叫ぶ。早く、早く!全力疾走でたどり着いた先は予想通り向こう側への入り口である門の前。
 

「…凄ぇ」
 

 呟いた一言は民衆の歓声でかき消された。今この場で大きな流れが起こっているという確信。国であれば誰もが感じたことがあるだろう絶対的な力。歴史が動く瞬間の、爆発。それが偶然か必然か決めるのは数世紀先の研究者達の話であって、今の俺達には関係ないこと。ただ動き出した砂時計は全ての砂が落ちるまで止まらないそれだけは事実。その砂時計が止まった時こそ、運よく生き残り続けた俺の歴史がようやく終わるのかもしれない、なんて考える。
 

 さて、どうしようか。俺に与えられた選択は二つ。このまま流れに身を任せるか、それとも。馬鹿馬鹿しい。今頃考えた所でもうひとつの選択肢がある時点において俺が選ぶのは決まっているのだろう。たかが半世紀、されど半世紀。たった一年で人や街が変わるように国にとって何かが変わるには十分な時間だったらしい。条件反射で着替えたのは無駄足だったということだ。
 

 洪水のような人の流れに逆らって歩く。不思議と歩きにくくないのは俺が国だからか、それとも。背中越しの歓喜の渦は未だ勢いを増すばかり。それは心の側面にあいた小さな穴を埋めてくれるようなそんな気がした。馬鹿な男、別れ際にそう笑った幼馴染の声が脳内で反響して自嘲する。全く馬鹿な男だ、俺は。否定できる要素がありやしない。弟は、ドイツ、は壁の向こう側で俺との再会を待っていてくれるのだろうか。それとも壁を壊してこちら側まで来てくれているのだろうか。
 

 「ごめんな」
 

 思わず口から出た一言は意味を持ちすぎて何に対しての謝罪か分からなかった。

 

 

―音は、消えゆく。



去年の統一おめでとうに間に合わなくて放置してたのを書きあげた。私に時事ネタは難しい。
オンリーお疲れ様でした。
 

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